弌矢コード

挿絵に負けたくないです。

JapAround

 幼い頃のアルチュール・ランボオの髪型にしてくれと、ギャングスタの僕が写真をスワイプして美容室で注文をつけたら、「見つかった/何が?/永遠が/海に溶け込む太陽が」と美容師が得意げに返してきたのだが、お洒落でゴダールでも観たに違いない。こっちは粟津則雄、小林秀雄堀口大学中原中也、四冊が蔵書にあるのだ(中也はKindle)。僕は獲った防水Kindleをいつも持ち歩いている。
 練り歩く。このアジア露店街に生まれて、ギャングスタの僕は頭に利用されてばかりいるぜまったく行くぜネクストバスタード! おっと失礼つい癖が。今日は依頼人の相手をしなくてはならないのだった。その依頼人とは一度会った。名前は太朗というらしい。ブルックリン帰りと訊いたが。
 確かなのは金持ちということだ。前金で札束を渡されて、次に落ち合う場所は告げられなかった。何か小馬鹿にされている様だったなと仲間とふたり喋り合った。
 あのときはばらけたアフロだった。僕は路地裏で習慣の様に貧乏草さながらしゃがみ込み、通る奴らを一々睨みやっていた。湿った路面の低みから睨み上げるのだ。僕等はお陰で正座ができない。
 そこへ、依頼人がやってきた。依頼人はしゃがみ込み、視線を僕等の低みに合わせて逸らさなかった。似我蜂みたいに細く女みたいだった。そして今どき肩を揺らしリズムを取る様にしていた。そんな女々しい男娼の様な依頼人に僕等は腹を立てた。舐めやがって。僕のKindleがやけに気にかかっている様だった。
 とはいえ、余談だが僕は二昔前のスタイルが好きだ。具体的に指折り数えれば二〇〇〇年頃のブルックリン。僕等を間違えて古いと指さしてしまった奴は、必ずヤる。オールドスクールが正解だ。だが僕にとっての本当のオールドスクールは数世紀か前にあたる。
 とにかく僕はアルチュールの形の頭になった。マーガレットほどに変身した様な心地で、仲間とともに依頼人を探している。公園の円宅で薬を呼吸しているのをぶっ飛ばしてから巻き上げ、ケミカルに酔いながら露天通りをさまよった。
 雨だ。僕は雨に撃たれるアルチュールだ。ヴェルレーヌが苦手な雨のアルチュールだ。
 アルチュール・ランボオはゲイだったと思っている。なぜなら、「とんとある話。あったか無かったかは知らねども、昔のことなれば無かった事もあったにして聴かねばならぬ。よいか?」と父=神主にいい訊かされていたから。多分誰かの受け売りだろうが。
──血は争えず道連れ、私はあのときいつもそうだった。
 そして、また見つかった。依頼人の太朗が。人気の無い露天通りの路地裏で、ずぶ濡れたチャイナドレスを着ていた。ロングウィッグの毛先から雨水がしたたっていた。敵の目をかいくぐるためだろうか。しかし酔っている様だった。僕には、こんな野郎一人見つけたことだけで幸運と思えたのだがしかし、
「ヤる奴間違えたみたいだな、YO!」
 ・・・・・・
 僕等は立腹しながら弁解した。頭がいかれてるんだと。僕等の頭は見境無く容赦を知らないんだと。
 すると太朗がディスり出した。知っているライムが出てくるわ出てくるわ。衒学的な奴だ。僕も同じ様にディスを返した。それから沈黙が続いた。残りの濡れた札束を二つ渡された。狩り直しだなと仲間がいった気がしたので、小雨となっていくなか目標を探してさまよい続けることになった。いつもこんなことばかりしている。
 晴れていく路地の遠く、タワーマンションの遙か彼方に、昼と夕暮れの始まりの輝かしい色合いがあった。振り向くと、まだいる太朗が通りがけの少年に話しかけている。口説いて見えた。突然何か咲き乱れた僕は、依頼人の太朗にアルチュールの面影を探していた。
 寂しかった。金色のブルックリンよりハーブ漂うジャマイカより夜明けのパリへ行きたかった。緑色に濁る本物のアブサンを浴びるんだ。そのためには金がいる。ずば抜けた詩とフロウ身に纏う吟遊暮らしへ向けて。

 僕の暮らしはラリってしまっているのだろうか? 本当に? 
 だが、僕等にはその続きがあるのだ。

 そのためには頭以外の助けはいらない。アジア露店街よりずっと遠くへ行くため、ただそれだけならば。