弌矢コード

挿絵に負けたくないです。

由無いシェルター

イースの地下神殿のICが微かに聴こえている。ふたりは三階の遮光されたシェルターにいる。エアコンの温度を下げてくれと兄がいったので、妹はリモコンのボタンを押した。大小のモニタのレトロ感漂う映像の数々に囲われて、ふたりはいる。命令した母親にとってレトロゲームが洒落ているのだった。
食べ物は揃っているし、バスルームは二階にある。母親自慢のピニャコラーダのモクテルまで用意されてある。ふたりはファンタを選んで、それには手をつけなかった。
兄が集合スイッチをスライドさせた。鳴り響く交響、ICがシェルターを竜巻いていく。ルームライトを弱めると空間がフラッシュした。親に知られたら大ごとだが、昔に禁じられたポケモンショックという遊びがあって、その素敵な心神喪失にふたりは惹かれているから仕方がない。色彩豊かな明滅が褪せた幻の世界をもたげさせるが、ふたりは一向に失神しない。何が禁止だ。
ふたりは触れ合った。
と、一階の父親の怒号が部屋ごとのインターフォンからした。兄妹仲良く遊べといってここに閉じ込めたくせに。夫婦喧嘩をしていて、その勢いで、そんな声になっていたのだった。バスルームの掃除を終えたから、いつでも入れという。
ちょうどよかった。途切れた受話器からこもった音が混線して聴こえていた。
ふたりは遊びを続けた。続けていくにつれ、妹には兄が衰弱していくように見えた。
雨音がした。
妹はベルベットをそっとめくり、外を眺めた。鳥が窓辺で眠っている。寸前で雨を避けながら眠りこけている。垂直に叩きつける雨で樹木の葉が落ちていく。低みの家々の窓の灯りは、孤立した船のまるい舷窓を思わせた。雨脚が斜めになった。真下の風見鶏が回転を始め、方向性を狂わせた。鳥が雨の中へと羽ばたいていった。その瞬間、もう夕暮れになっている。
見渡すとドーム状に薄く広がる雲が、さながらシェルターのようだった。その上空はまだ青みがかったゼリー状のシェルターを思わせるに違いない、と妹はベルベットを閉じた。シェルターの暗がりに目がなれるまで時間がかかった。
兄は幾度もの痙攣の末、発汗して横たわっている。抜け殻のようだった。
妹が仄明かりに微笑を浮かべた。
時代が交差していく予感がした。