弌矢コード

挿絵に負けたくないです。

去年全裸で街なかで

去年の夏、高級レストランの回転ドアを出て、陽炎まとう街なかを歩き出したとき、
不良グループに身ぐるみをはがされたのだった。
シャネルのサングラスが悪びれて見えたのかな。
ウブロの時計のせいかな。
コールタールの滲む路上、堂々と、彼らは、私を生まれたての姿にさせた。
街なかでの全裸は、意外や、暑さが刺さることを生まれて初めて知った。
無傷だったから、自宅近所の井の頭恩賜公園に向かい、ベンチに腰掛けて、考えることにした。
生い茂る桜の葉の影が、私の熱を下げていく。
木漏れ日が、私の全身を迷彩柄に日焼けさせないかと案じながら、熟考した。
そのすえ、私は私に呆れた。
いつも利用している銀行に行けば解決するではないか。
あそこは涼しい。
ピストン運動する鳩の足もとにタバコの吸殻を見出し、
拾って一服することにした。
通りがかりのカップルに火を借りて、
吸い終える頃に、私の利用している銀行にたどり着いた。
銀行の空気が、私を凍えさせた。
「お困りですか?」
私が答えると、
「お客様、逆に寒いでしょう?」
私は答えた。
銀行員の女性は笑みを浮かべ、我が社はお金以外のサービスにも努めてまいりますと、
整った対応だった。
私は深く頭を垂れた。
私の淡い恥毛は❤型に整えてある。
「そろそろトリミングしなおそうかな、身だしなみは大事だからね」
女子銀行員は、よくお似合いですよと、お世辞だろう言葉を発した。
店内の冷気が程よくなってきていた。
銀行って心遣いがあるんだな、思ったよりか。
私は甘えて、
「も少しくつろいでいいかな、いつもこの銀行を利用しているんだし、貯蓄も豊富」
女子銀行員は優しく答えてくれた。 
「ありがとう、このままでいたいんだ」
「ええ、素敵な人生と見えます」
私は驚いた。
その銀行員としてではない、ひとりの女をあらわにした感のある言葉に私は、
激しく勃起したりはせず、全身が弛緩した。
 ──ここが注意だ、やり口だ。
私は弛緩を自ら禁じ、警戒をもって接することにした。
裸体の私が静止した女子銀行員を視姦する。
ふた分けされたブルネット、瞬きしない睫毛はそり上がってエクステンション、
淡い桜色のアイシャドウ、淡いチーク、淡いくちびる、輪郭の強い面立ち、
指導のたまものであろう姿勢、産毛すら蒸発し尽くしたかと見紛う足。
「さて」
動き出した女の言葉で、総毛立ち、身罷る思いになった私の左曲がりの局部を、女はゆらゆらと撫で回し始めた。
「そうはさせない!」と私は柔らかいマットをつま先で捉え踏みしめ立ち上がった、「だまされないぞ!」
女はやめない。
「そうはさせないんだ!」と私はもう一度女にすごんだ。
変わらぬ行為を続ける女に、私は、また声を発した──

銀行のなか、裸体の私は負けていた。始めから、街なかから、すでに負けていた。泣いていた。泣いて泣いて、ちっとも泣かせてくれない。せめて無関心なざわめきを纏いながら、どうかこのまま安らかでいさせてくれ、優しい真夏の盛り、この建物が硝子張りで丸見えだったなら、太陽は真上にある、世界はすべてそろっているじゃないか・・・・・・
それからの、
今、
全部、溢れ出す、遅れて。